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黒繊月

黒月叶真 オフィシャルウェブサイト

長編小説

第二話

「来ないじゃない!」
怒りを込めて抱いていたくまさん(お気に入り)の腹部を殴る。慌てて撫でると、今度はベッドに仰向けになった。時刻はもう22時を過ぎている。戦いが終わったのは18時頃。
「今夜来るって言ったのに」
「誰が?」
「和磨」
「そんなに俺に会いたかったのか」
「別にそうとは……っ!?」
あたかも最初から居たようにする和磨に驚愕の色が隠せなかった。怒りからか羞恥からか顔を赤くし、口をパクパクさせていると、その男は暢気に軽薄そうな笑みを浮かべていた。
「こんばんは、だな。依」
「いい、いつから!?」
「『和磨に会いたくて可愛い服で待ってるのに、全然来てくれない』って言ってたときから」
「そんなこと言ってない!」
持っていたくまさん(お気に入り)を投げつける。彼はごく自然な動作で受け止めるとまじまじとくまさん(お気に入り)を見た。
「依のお気に入りのくまか。相変わらず幼稚なことで」
「アンタには関係ない! 用が済んだなら帰って!」
「はいはい」
飄々とした態度で依に近づき、深い蒼の瞳で依を見つめる。
「な、何よ」
「じっとしてろ」
近づく瞳、もとい顔を直視できず、目をぎゅっと瞑る。
そしてふたりの距離は近づき、そして、マイナスに。
「んっ……痛」
「首の所、あのときは隠れてたみたいだな。浅くても気をつけろって言ったろ?」
「ごめん……って浅いならキスすることなくない?」
「依の霊力じゃあ、いつ治るかわからないから」
「馬鹿にして! もう用はないでしょ、帰って!」
「今度こそ帰るよ。じゃあな、依」
まるで最初から居たかのように現れて、そして、居たのが嘘のように居なくなる。
「もう……慣れないといけないのに、慣れるわけないじゃない」
赤くなった頬を隠すように倒れ込む。
「私の霊力がもっと強ければ、よかったのかな」

第二話

20?? up

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